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平成27年度 春号  『自尊感情とは?』

児童養護施設出身のMは、工業高校を優秀な学業成績とさまざまな資格を取得して卒業しました。
彼の立派な経歴を評価され、大手の優良ハカリメーカーに無事就職することが出来ました。
前途洋々の社会人生活のスタートに見えました。
海外での貴重な実務研修などを経て、いよいよ新任としての仕事が軌道に乗り始めて半年を過ぎたころ、職場の同僚が僕の悪口を言っている、善くない噂をしていると訴え始めました。
そのまま、こうした根拠のない対人妄想が悪化して家に閉じこもり、同じ施設出身の仲間が昼夜を問わず、彼を見守りサポートしてくれました。
しかし結局、彼の言動は日増しに過激になり、手に負えずに精神病院に入院させざるを得なくなりました。
彼の病名は統合失調症です。
あの真面目で努力家のMの姿は見る影もなく、おどおどとした目つきの髪の毛とひげが伸び放題の変わり果てた姿になりました。
生活保護と医療保護を受給しながら、福祉作業所で細々と生活してきましたが、数が月前に5階のアパートから飛び降りを図りました。
幸いなことに命に別状はなかったのですが、下半身の骨が砕け、立つことだけが彼のリハビリの目標になりました。

Mは私たち夫婦が児童養護施設で共に働いていた時に、ママ先生が担当して育ててきた子でした。
彼はマイペースにのびやかに高校生活を送っていたように見えていましたが、大きな挫折感を抱えていました。
実は高校進学で目指していたのは公立の普通科の高校でした。
しかし、受験に失敗しやむなく工業高校に進学したのです。
そして彼は、毎日登校途中に本来入りたかった公立高校の前を通って自転車通学をしていたのです。
僕は公立高校の前を毎日通過するときが、とてもつらいと漏らしたことがあります。
彼にとって根深く劣等感や挫折感を刺激され続けていたのだと思います。
そのコンプレックスが、彼の学業やあらゆる資格取得への原動力になっていたのかもしれません。
周りからもその努力と実績は称賛され評価されていました。
一見大きく自尊感情が育まれているように見えていました。
しかし、彼が社会に巣立って、人間関係を含めてさまざまな社会人として乗り越えなければならない困難や課題に直面した時に、頑張りが利かずに、一気に自尊感情はしぼんでしまい、心まで壊れてしまったのだと思います。
張子の虎のように表面は強がってみても、中身は絶えず熱を送り込まれなければ膨らみ続けることが出来ない熱気球のような心の状態で、まわりから評価され称賛され続けなければしぼんでしまうような危うくもろいMだったのだと思います。

Mの飛び降り自殺から間もなく、彼の兄が40歳という若さで亡くなりました。
彼の兄もリサイクルショップのアルバイト店員として、生存ぎりぎりの生活を送っていました。
兄は喘息持ちでしたが、まともに医療のケアを受けることが出来ずに、発作が起こるとドライヤーで空気を送ってしのいでいました。
ある時に発作を起こし、もうひとつの持病である心筋梗塞で脳内血管が切れて、孤独に悶絶するような死を遂げたのです。
昨年、この兄弟に立て続けに起こった出来事は、私たちにとって例えようもない大きな衝撃でした。
この痛ましい出来事が、わたしたちのこころに澱のようにひっかかり続けていました。
Mと兄は、素朴だが粗暴で家族を支配し怒鳴り殴りつければ子どもは育つと単純に信じている父親と、うつからこころが病んでしまいこうした父親から子どもたちを守る保護膜のような役割は果たせずいた母親のもとで乳幼児期を過ごしていました。
母親の状態が悪化したことから、家族が崩壊して施設に入所してきたのです。
私たちは2人の悲劇の根底には、乳幼児期での家庭環境での育ちの在り方が、その後の人生に大きく影響していたと思っています。
私たちは、この苦い出来事を通して熟考を重ねた末に、今年度の保育の年間テーマを“自尊感情を育む”にしました。

それでは、自尊感情って?
どう理解したらいいのか。
認められたり、ほめられたり、優れていると実感できたり、価値があると思えたりすれば高まるのは、自尊感情の一部分に過ぎません。
Mはこの社会的な自尊感情は膨らんでいたのでした。
しかし、大切な自尊感情の基礎をなす部分が、施設入所前の過酷な養育環境のなかで大きく損なわれたまま補いきれずにいたのだと思います。
それでは本当の意味で、彼に課せられた大きな困難や課題を乗り越え、支えることが出来なかったのだと思います。
土台に必要な大切な残りの部分が基本的自尊感情です。
成功や優越とは無縁の感情です。
いわば、あるがままの自分自身を受け入れ、自分をかけがえのない存在として、丸ごとそのまま認める感情です。
善いところも悪いところも、長所も欠点も併せ持つ自分を、大切な存在として尊重する感情が、基本的自尊感情です。
そして、この感情こそが、自尊感情の基礎を支える大切な感情なのです。
私たちは、児童養護施設で受け止めてきた子らのさまざまな形で損なわれてきたこの基本的自尊感情を育みなおすことのむずかしさを痛いほど味わってきました。
そして、本来なら社会の一員として、何らかの貢献をしてシアワセに生きていていいはずのMとその兄の悲惨な現実を前に、いまここにいるぶどうの実の子どもたちに保護者の皆さんと共に私たちは何を育んでいけばいいのかと、これからもたじろがずに考え続け、そして実践し続けていきたいと新たな思いをかみしめています。

ぶどうの木では「シアワセな未来を創るひとを育てる」を社会的な役割のコアな目的に掲げています。
そして、保育園であるぶどうの実では、成長の根を力強く張った子、希望の種を心に宿した子に育むために、一人ひとりを大切にする子ども主体の保育を実践したいと願っています。                 
 

ぶどパパ&ママ より

参考文献 『子どもの自尊感情をどう育てるのか』ほんの森出版 近藤卓著

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兄弟の長年の辛さと戦いに心が痛みました。そして幼少期を過ぎてからでは取り返しのつかないことがあると改めて自分の子育てに誤りがないか、ちゃんと必要な働きかけをして、子供が自分の存在を認めているかどうか考えさせられました。自尊というと、つい、人より何かがうまく、はやくできる喜びから得られるように思えますがそういうものではないんですね。。むしろ、それを願う親の思いが強いと、自尊をうしなうのかもしれません。人よりはやく、人よりできることより、わが子をしっかり観察したいと思えました。ありがとうございます
プロフィール

ぶどパパ&ぶどママ

Author:ぶどパパ&ぶどママ
平成13年にぶどうの木を設立してから、私夫婦が保護者向けの園だよりに毎月掲載してきたものを、ブログで公開しているものです。
内容は、私たちが関わってきた児童養護施設や保育園、学習塾や様々な子育て応援を通して、子ども子育てを中心にその実践を踏まえた思いや願いなどを綴ってきたものです。
私たちの子ども子育ての実践を「ぶどうスタイル子育て」として確立して行きたいと同時に、広く紹介して少しでも子育てに悩んでいる親へのヒントや支えにしていただければと思っています。

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